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静岡地方裁判所浜松支部 昭和42年(ワ)341号 判決

原告

鈴木みつ

ほか四名

代理人

大久保弘武

鈴木光友

被告

静岡スバル自動車株式会社

代理人

田中登

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実《省略》

理由

一鈴木良二、仲山清雄、河合和弘(以下、前記三名を総称して「三名の者」という)と被告会社の従業員鈴木喜代一が被告会社所有の本件自動車に乗車して、昭和四二年四月九日午前八時四五分頃愛知県宝飯郡音羽町大字青木地内の国道一号線を運転進行中運転を誤り、訴外高杉正弘の運転する対向車と正面衝突し、前記四名の者が死亡したことは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を綜合すれば、当時本件自動車を運転していたのは、鈴木喜代一であると認められる〈証拠判断略〉。

二本件事故は、「三名の者」が、鈴木喜代一とともに、事故前日の深夜午後一〇時頃、浜松市篠原町の右喜代一方を出発して、岡崎の夜桜見物に出かけ、さらに名古屋市にまで立寄つて、帰宅する途中発生したものであるが、(〈証拠〉以下、本件自動車の前記発進から事故に至るまでの運転走行を、本件走行という)、「三名の者」は、鈴木喜代一とともに、被告会社において、本件自動車を私用に供することを厳禁している事実を知悉しながら、被告会社に無断で、遊興のため勝手に乗り廻したものであるから、本件走行につき、被告会社に対する関係においては、鈴木喜代一と一団をなして、喜代一と全く同じ立場に立つものというべく、「三名の者」が、右喜代一と異なる立場に立つとすることは、理由がない。

以上、この点をさらに詳述する。

(一)  被告会社は、本件自動車を私用に供することは、これを厳禁していたのであるが〈証拠判断略〉、「三名の者」は、右事実を熟知していたこと。このことは、次の事情から明らかである。

すなわち、「三名の者」は、鈴木喜代一の親友で、始終同人方に出入しており、かつそのうち、(イ)鈴木良二については、本件事故の二、三カ月前鈴木喜代一が自宅に乗つて帰つた被告会社所有の自動車を借受けて運転し、事故を起した際、鈴木喜代一から、(ロ)仲山清雄、河合和弘の両名については、その直後鈴木喜代一方で鈴木良二が同人に右自動車の修理代の支払をしようとしたのに、喜代一がこれを固辞して、押問答している現場に来合せた際、鈴木はつえ親子からいずれも、被告会社所有の自動車につき私用禁止を厳重に言い渡されていることを聞知したと認められること

(二)  本件走行は、鈴木喜代一と「三名の者」の協力によつて実行されたものであるが、「三名の者」の協力関与の程度も、鈴木喜代一と比較し、その間に全く優劣を認めがたいこと

(1)本件自動車に乗車して夜桜見物に出ようとするに当り、鈴木はつえがこれを極力制止した際、喜代一は、母の説得に従つて、これを思い止まろうとする様子が窺えたが、「三名の者」が、『兄が見に行つて、きれいだつたというから』(鈴木良二)とか、『自分等に限つて、事故は起さないから、大丈夫だ』(仲山)とか、『若いときは、二度ない』(河合)などと口々にいつて、制止に対し積極的に反情を示し、夜桜見物の決行を強く主張したため、喜代一も、結局「三名の者」の意向に押され、これに同調せざるをえなかつたものと推認されること

(2)事故発生当時、鈴木喜代一が運転していたとはいつても、本件走行に当り、必らずしも同人が終始一貫して運転していたものとは、認めがたく、運転免許を有していた鈴木良二、仲山清雄の両名も、適宜交替して運転したか、少くとも適宜交替して運転することを了解し合つていたものと推認されること(走行区間、走行時刻、道路交通等の諸事情に照らし、容易に推認されるところである)

(三)  また「三名の者」自身の認識ないし自覚の点を推認してみても、被告会社の禁をおかし、勝手に本件自動車を乗り廻わす以上、本件走行によつて、万一、傷害を蒙つた場合には、それが四名の者のうち、誰の運転の誤りに基づくものであろうと、本件走行の利益に伴う当然の害悪として、これを「三名の者」の側において甘受すべく、本件自動車の所有者が被告会社であるという形式面に藉口して、被告会社に対しその賠償を請求しえないことは、充分にこれを認識自覚しているか、少くともこれを認識自覚すべきであつたといわなければならない。

しかして、このことは、本件のような死亡事故の場合においても、なんら変るところがないのである。

三これを要するに、本件走行については、被告会社と「三名の者」との間においてみる限り、被告会社に、運行の支配も、また運行の利益も全くなく、それらは、むしろ「三名の者」の側にこそありというべきである。

以上説示したとおりであるから、被告会社が、運行供用者であることを前提として、本件事故につきその責任を問う原告等の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において、いずれも理由がない。

四よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(植村秀三 片桐英才 青木誠二)

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